株式会社アテナは、日本産のLLM(大規模言語モデル)を目指す会社です。生成AIの基盤を海外の巨大企業に依存する現状に対して、私たちは「自分たちの手で、日本語と日本のデータに根ざしたAIをつくる」ことに挑んでいます。本コラムでは、その背景にある考えと、私たちなりの現実的なアプローチをお話しします。
私たちの出発点は、大学での数値計算でした。代表の山本は、物理学の分野で「トンボの翅(はね)の断面構造と3次元振動モード解析」——飛翔昆虫型マイクロマシンのための物理——という研究に取り組みました。自然の構造をモデル化し、コンピューターの中で振動や挙動を数値的に解く。地味ですが、これは「現象を数式に落とし、計算機で解く」という、あらゆる計算科学の土台です。
この数値計算の素養は、その後の暗号資産マイニングへとつながりました。マイニングは、専用ハードウェアで膨大な計算を回し続ける営みです。電力と発熱を管理しながら計算機を安定して動かす——その泥臭いインフラ運用の経験が、いまのAIへと一本の線でつながっています。物理シミュレーションも、マイニングも、そして生成AIも、突き詰めれば「計算機をいかに回すか」という同じ問いの上にあるのです。
近年、海外の大規模モデルは日本語の能力を大きく伸ばしました。便利である一方、すべてを海外のクラウドAIに預けることには、見えにくいリスクがあります。入力したデータが国外のサーバーに渡ること、料金や仕様が提供企業の都合で変わること、そして自社の用途に合わせて中身を作り変えられないこと。情報を扱う事業者にとって、これは「他人の基盤の上でしか仕事ができない」状態を意味します。
私たちが「日本産」にこだわるのは、ナショナリズムからではありません。データ主権——自分たちのデータを、自分たちの管理下で扱える状態を守るためです。日本語の機微な言い回しや、業界ごとの慣習、国内の法制度や商習慣に根ざした業務は、国内で完結できることに大きな意味があります。とりわけ、社外に出せない機密データを扱う場面では、「日本国内の、自社の管理下にあるAI」であることが決定的な価値になります。
日本産LLMというと、海外の巨大モデルに正面から張り合う話に聞こえるかもしれません。しかし私たちの考えは少し違います。すべての業務に、最大最強のモデルが必要なわけではないからです。多くの中小企業の実務——文書の要約、契約書のチェック、見積や提案の下書き、社内ナレッジの検索——は、用途に特化した小〜中規模のモデルで十分にこなせます。
だからこそ私たちは、巨大モデルの開発競争に身を投じるのではなく、「現場で本当に使えるLLM」を、オンプレミス(社内設置)で、データを外に出さずに動かす方向に注力しています。等身大の構成で、確実に役立つAIを届ける。それが、中小企業にとっての“日本産LLM”の現実的な姿だと考えています。
具体的には、用途と予算で選べるオンプレミス生成AI「AIシリーズ」と、3つの独立したAIが合議して結論を出す「TRIAD(三賢AI評議)」を開発しています。社内文書を根拠に回答するRAG(検索拡張生成)を組み合わせ、ハルシネーションを抑えながら、社内の知識を社外に出さずに引き出す——そんな環境を、届いたその日から使える形でお届けすることを目指しています。日本産LLMという大きな目標も、こうした一つひとつの実装の積み重ねの先にあると信じています。
数値計算から始まり、マイニングで計算基盤の運用を学び、いま生成AIへ。私たちの歩みは一貫して「計算機を自分たちの手で握る」ことの上にあります。日本産LLMを目指すのは、その延長線上で、日本の企業が安心して使えるAIの基盤を、自分たちの手で築きたいからです。派手さよりも、現場で確かに役立つこと。私たちはそこにこだわり続けます。
※ 代表の研究背景:トンボの翅の断面構造と3次元振動モード解析(琉球大学 物理)