ASICマイニングから
AI計算基盤へCOLUMN / 2026.06.20

私たちはかつて、暗号資産のマイニングに取り組んでいた時期があります。専用マシンを並べ、電力と発熱と格闘しながら計算機を回し続けた——そのときの経験が、いま取り組んでいるAIの計算基盤づくりに、思いのほか深くつながっています。本コラムでは、マイニングで得た学びと、それがオンプレミスAIや「日本産LLM」を目指す取り組みにどう生きているのかをお話しします。

マイニングと、ASICという専用ハードウェア

ビットコインに代表される暗号資産の多くは、「プルーフ・オブ・ワーク(PoW)」という仕組みで取引を承認します。ごく単純化して言えば、世界中のマシンが大量のハッシュ計算を競い合い、最も早く答えを見つけたマシンが報酬を得る、という仕組みです。この計算を担うのが「マイニングマシン」です。

初期はパソコンのCPUやGPUで行われていましたが、やがて特定の計算だけを極限まで高速化した専用チップ「ASIC」が主流になりました。ASIC専用機は、その計算に関してはGPUを圧倒する性能を出す一方、用途は一つに固定され、消費電力も発熱も騒音も桁違いです。私たちが扱ったA9Zのような専用機も、まさに「一つの計算のためだけに最適化された塊」でした。

久しぶりに動かして、あらためて実感したこと

数年ぶりに専用機を動かしてみると、技術そのものよりも「運用の泥臭さ」をあらためて思い知らされます。採算は、コインの価格・採掘難易度・そして電気代という三つの変数で大きく振れます。難易度は時間とともに上がり続け、同じマシンでも得られる報酬は目減りしていきます。電気代が高ければ、回せば回すほど赤字になることすらあります。

さらに、24時間止めずに安定して回し続けることの難しさ。排熱の処理、電源容量の確保、ネットワークの安定、故障時の切り分け——華やかな話題の裏側は、地味なインフラ運用の連続です。この「計算機を大量に、安定して回し続ける」という泥臭い経験こそが、私たちにとっての本当の財産になりました。

マイニングの経験が、AIに生きる

一見、暗号資産のマイニングと生成AIは別物に見えます。しかし計算基盤の視点に立つと、両者は驚くほど似ています。どちらも、消費電力の大きい計算機(GPUや専用チップ)を、発熱と電力を管理しながら安定して回し続ける営みだからです。

ローカルでLLM(大規模言語モデル)を動かすオンプレミスAIも、突き詰めれば「自前の計算機を、いかに安定して効率よく回すか」という問題に行き着きます。GPUの選定、電力と冷却の設計、複数台を連携させる分散の考え方——マイニングで身につけたインフラ運用の勘所が、そのままAIの基盤づくりに役立っています。流行の移り変わりに振り回されず、計算基盤そのものを自分たちの手で握ってきたことが、いまになって効いているのです。

「自前で計算機を握る」という選択

クラウドに任せれば、計算機のことを意識せずにAIを使えます。便利な反面、データもコストも他社の基盤に依存することになります。私たちが、データを社外に出さないオンプレミスAIや、ゆくゆくは日本産のLLMを目指しているのは、計算基盤を自分たちで握ることに価値があると考えているからです。マイニングで「自前で計算機を回す」現実の難しさと面白さを体験したからこそ、その重みを実感をもって語れます。

まとめ

マイニングは、私たちにとって単なる過去の取り組みではありません。専用ハードウェアと向き合い、電力と発熱を管理しながら計算機を回し続けた経験は、オンプレミスAIや日本産LLMという、いまの挑戦の土台になっています。派手な成果の裏で計算基盤を支える泥臭い知見こそ、これからのAI時代に効いてくる——私たちはそう信じています。